文化芸術

インタビュー 挑戦を楽しむ 映画音楽監督タルパラン

常に新しいジャンルの先頭に立ってきた大衆音楽家タルパラン。彼の現在の立ち位置は映画音楽の世界だ。1997年に彼を映画音楽の世界に導いた最初の作品『悪い映画』以降、彼は絶え間なく独創的なサウンドデザインを通じて、注目される成果を成し遂げてきたが「まだまだ満足していない」と、今なおあふれる意欲に満ちている。

タルパランが京畿道坡州にある自分のスタジオで仕事をしている。彼は「音楽が映画より先走ってはいけない、映画の中に自然に溶け込むものをデザインしなくてはならない」と言う。

タルパラン(本名:カン・キヨン、姜基英)は、いつも「革命」を伴ってくる。かつて国内最高のヘビーメタルバンド、オルタネイテイブのメンバーだったが、その後、電子音楽DJに転向し、まもなく韓国映画界のなくてはならない作曲家の列に加わった。「パランタル(青い月)」の側面を見るために、彼の仕事場のある京畿道坡州に向かった。

個性的な芸名をもつこの音楽家は、一人もしくは同僚のチャン・ヨンギュ(張英圭)監督と共に、21世紀の韓国映画の独創的なサウンド風景を作り上げてきた。『甘い人生(2005)』、『グット・バット・ウィアード(2008)』、『哀しき獣(2010)』、『暗殺(2015)』、『哭声:コクソン(2016)』、『毒戦(2018)』-彼が音楽を担当した映画の目録は多く、作品も充実している。その熾烈な戦いが繰り広げられた仕事場は、楽器で囲まれた小さな要塞のように見えた。正面には巨大なスクリーンの壁掛けテレビがあり、テレビを見上げることのできる要地はコンピュータと大きなキーボードが占領している。それをさらに羽のように守備しているのが、アナログ・シンセとモジュラー・シンセ、フェンダー・ジャガーモデルを含めた何台ものエレキギターとベースギターなどだ。タルパランの音楽の歴史は、この中のべースギターから始まった。

「韓国ロックの伝説シン・ジュンヒョン(申重鉉)先生の息子、テチョル(大澈)とは高校時代からの友人でした。お互いの実力を知っていたので、一度一緒にやってみようと意気投合しました」。

ロックの伝説
彼らが1980年代に率いていたロックバンド「シナウィ」は、二人以外にもキム・ジョンソ(金鍾書)、イム・ジェボム(任宰范)、ソ・テジ(徐太志)のような大物ミュージシャンを輩出し、韓国の大衆音楽に深い足跡を残した。

タルパランは自らを“すぐに飽きてしまう性格だ”と言う。シナウィ以降、彼は先駆的なモダンロックバンド「H2O」に飛び込み、1990年代の半ばには、前衛的なロックで歌謡界に衝撃を与えた「ピピバンド(PPPB)」にいた。さらにすぐに「ピピロンスタキング」を経て、ついにはDJに転向しテクノとトランス音楽の先鋒に立った。こうしてみると、すぐに飽きてしまうという彼の自己評価は的を得ているようにも見える。

「ピピバンドの2枚目のアルバムに『悪い映画』という歌があるんですが、その曲を聴いたといってチャン・ソンウ(張善宇)監督がたずねてきました。同じタイトルの映画を作っているのだが、音楽を作ってくれないかということでした。深く考えもせずに、分かったと答えました。そのときは金になるからと受けたようなものです。映画音楽家になろうとは思ってもいませんでした」。

そうやって1997年作『悪い映画』がタルパランの映画音楽監督デビュー作となった。しかし、2年後の『嘘』の作業に至るまでは、鍵盤の前に座ると漠然としていました。ピンクフロイドの音楽で作った映画『スリーウィメン/この壁が話せたら』やヴァンゲリスが音楽を担当した『ブレードランナー』に深く感銘したMTV世代として、ミュージックビデオを熱心に観たことはあったが、映画音楽に関する専門的な知識はほとんどなかったからだ。

「エンニオ・モリコーネがどうで、ハンス・ジマーがどうだというような話にもあまり関心がありませんでした。それに当時の韓国の映画音楽には、これといった体系がありませんでした。頼れるものも無いまま、ただ当たってくだけました」。

しかし荒野の無法者が一人ぼっちのわけがない。その頃、タルパランには幸い同じような境遇、同じ年代の放浪者の群れがいた。パン・ジュンソク(方俊錫)、チョン・ヨンギュ、イ・ビョンフン(李炳勳)は、「ユ・アンド・ミ・ブルー( U & Me Blue)」、「エアブプロジェクト」、「トマペム(トカゲ)」などのバンドでそれぞれ活動しながら、韓国のインディ音楽の前衛を形成していた。1990年代後半にタルパランは、彼らと「ポクスンア(桃)プロジェクト」という集まりを作った。「ポクスンア(桃)」とは特別な意味もなく付けた名前だったが、この‘ルーズな桃園の決意’は、21世紀の韓国映画音楽に新鮮な花を咲かせる健康的な土壌となった。

放浪者の群れ
「当時はインターネットも発達してなくて、お互いに必要な部分についての情報を共有しながら自然に会っていました。みんな、特別なものが好きだという点では通じていましたが、もう一つの共通点は、当時の韓国映画音楽界のありふれた音楽に対する不満でした。今、振り返ってみるとみんな映画界に少しずつ足を踏み入れていたので、批判的だったのでしょう。とにかくそんな考えが、とどのつまりは創作に向かう肯定的なマインドに転換できたのだと思います」。

健康な土は美味しい実をもたらす。タルパランに転機が訪れた。キム・ジウン(金知雲)監督と作業をした映画『甘い人生』が、スペインのシッチェスで開催されたカタロニア国際映画祭で音楽賞を受賞したのだ。

「金監督から電話が来て賞を取ったと言われましたが、最初は何の冗談を言ってるんだと思った記憶があります。それ程に突拍子もないことでした」。

桃プロジェクトのメンバーのチャン・ヨンギュとは、その後も一緒に仕事を続けている。満州を背景にしたいわゆる『キムチウエスタン』ジャンルを開拓したアクション映画『グット・バット・ウィアード』の音楽も彼との共同作業だった。二人は当時、演出のキム・ジウン監督の呼び出しで、中央アジアのウイグル地区に向かった。

「現地の市場で売られている粗悪なカセットテープを買って、それを聞きながらウイグル音楽に親しみました。中東音楽と似ていますが、やや他の音階を使っていました。市場で買った弦楽器と打楽器も録音に使用しました。エンニオ・モリコーネ風のマカロニウエスタン・スタイルに東洋的な音階を混ぜてみたんです」。

『哀しき獣』、『京城学校:消えた少女たち』、『暗殺』… タルパランの前にはそれ以降、韓国の近現代史と東アジアという耳慣れていながらも見慣れぬ時空間が宿題として投げかけられた。

「映画的な装置として当時の音楽をどうしても使わなければならないこともあります。しかし、そこにとらわれてはいないです。他の方法でも映画が出そうとする雰囲気をかもし出し、その時代を説明できるからです。いずれにしても映画は現実ではないんですね。決められた法則などないんです」。

10代から30代まで、ヘビーメタルからテクノまですべての分野に手をつけた幅広いキャリアが、いつの間にかタルパランにとって豊富な栄養素となっていた。彼の話のように「映画とは状況に従い、いくつものスタイルを生み出すことができるから」だ。

彼の仕事場の右側の壁には公共の建物でよく見かけるような、時間が秒単位で表示されるデジタル壁掛け時計がかかっている。6:32.06PMと真っ赤に発散するゴシック体の数字は、空間全体を掌握する独裁者のように見えた。

「毎回大変ですよ。自分の個人的な作業なら、何か良いアイデアが浮かぶまで待っていればいいのですが…映画は締め切りがあり、封切り日がありますから、アイデアが浮かばないと無理をしてでも完成させなくてはならないんです。結局はどうにか、何とか出てくるものですが。作業の過程自体は並大抵ではありません。非常に大変な仕事なんです。それがつまらなく、性格に合わずに結局放棄した友人も何人もいました。映画音楽を作っていて過労で倒れた友人も見ました。私は苦痛よりも楽しさの方がより大きかったんです。一つの映画を終えたときに、何かをやり遂げたという感じが好きなんです。やればやるほど面白くなりました」。

「映画的な装置として、当時の音楽をどうしても使わなければならないこともあります。しかし、それにとらわれてはいません。他の方法でも映画が出そうとする雰囲気をかもし出し、その時代を説明できるからです。いずれにせよ映画は現実ではないんです。定められた法則などないのです」

作品ごとに新たな挑戦
3段に重ねたアナログシンセサイザーの後ろにはアップライトのピアノが1台置いてある。一見楽器というよりは人体解剖図に似ていた。正面の部分をはずしてハンマーと弦があばら骨のようにすっかり現れている。様々な音を実験するための映画音楽家的な装置だ。そのピアノの上にトロフィー3個が並んでいる。大鐘賞と青龍映画祭で受賞したトロフイーだ。その一つには『哭声コクソン』と書いてある。タルパランはチャン・ヨンギュと共にホラーとスリラー、現実と超現実、巫俗と殺気が奇妙に入り混じったこの映画に、芸術的なサウンドデザインを精巧に溶け込ませた。

「映画は2次元じゃないですか。すべてのものは平らなスクリーンで起きます。だが観客にそれを立体的な経験として、すなわち現実として受け止めさせるためにサウンド効果も一役買っていると思います。『哭声』に対する海外の評論家の文章の中で、音楽の空間感を指摘した部分がありました。そうなんです。設置美術水準ほどではありませんが、観客が受け止められる水準で妥協しながら、サウンドアート的な要素を添加してみました。いつかはこのような試みを必ずしてみたいと思ってたんですが、幸いエネルギーあふれる映画に出会えました」。

タルパランはこの映画に、リゲティ・ジェルジュのような現代音楽家が使う音響クラスター技法を注意深く導入した。

「歪曲から来る波長があります。音と音をねじって新しい音響的な要素を作り出すのです。このような効果を出すために、主にアナログ・シンセとモジュラー・シンセを使用しました」。

このような観点からタルパランが最近最も関心をもっていた映画音楽家が、去年亡くなったアイスランドの作曲家ヨハン・ヨハンソンだ。『ボーダーライン(2015年)』の頃からヨハンソンに注目していたという。

「映画の暴力的な要素を表現する際に、音響的な歪曲を利用しますよね。現代音楽に関する知識が全くない一般の観客でさえ、直感的に感じるように表現したものです。ヨハンソンの実験が凄い理由です。彼の他の作品『メッセージ』もそうです。そのような実験は、単純な音響効果を超えて音楽的に使用されたことは非常に興味深かったです。最近、海外でこのような試みがあるのは事実です。マーベルのスーパーヒーロー映画にもそのような効果がちらっと出てきますが、ヨハンソンの作業レベルには及びません。サラウンドからドルビーアトモスまで劇場の立体的な音響システムを十分に利用した映画は、韓国にはまだありません」。

タルパランはヨハンソンが、まだ一度も会ったことのない同僚か友人のように感じられるという。それで彼の死がとてつもなく悲しいという。年齢も同じくらいで、本人がいつもしたかった作業を、大胆に商業映画で先頭にたって実践してきた人物だったからだ。

タルパランの最近作は『毒戦』と『ドアロック』だ。『毒戦』は、また青龍映画賞の音楽賞を受賞し、観客の異例な要求でCDのOSTアルバムも発売された。スリラー恐怖映画の『ドアロック』では、旋律よりは音響的な要素を多く加えてみた。しかし、まだ完璧と言えるほどの満足感はない。それでは今年作業する次の作品が彼の要求を充足させるだろうか。

ハングルを創製した世宗大王の物語を扱ったソン・ガンホ主演の『ナラマルサミ』と、互いに異なる時間に生きている二人の女性が、一通の電話でつながったことで起きる話を描いたスリラー『コール』が、封切りを待っている。彼は『コール』に新しい試みをしてみたと語ってくれた。新しい挑戦はもっとある。彼としては最初のテレビドラマの仕事となるネットフリックス制作の、朝鮮時代のゾンビ映画『キングダム』シーズン2がそれだ。

日本植民地時代の満州の荒野を背景にした韓国版ウエスタン映画『グット・バット・ウィアード』(2008)では、強烈な印象を与える音楽で観客を魅了した。特にニーナ・シモンの 1964年度のヒット曲『Don’t Let Me Be Misunderstood』を、ウエスタン風のテンポの速いラテンダンス曲に編曲したタイトル曲が深い印象を残した。 © CJ ENM

『毒戦』は、2018年の上半期に公開された韓国映画の中で、 最も大きな話題と興行成績を残した作品だが、登場人物の内面世界を音楽が見事に表現していたという評価を受けた。タルパランはこの作品で、韓国映画製作家協会賞と青龍映画賞の音楽賞を受賞した。 © Next Entertainment World

「シーズン1を事前に見ましたが、なかなか面白かったです。観客動員の圧迫感がないので、ネットフリックスとの仕事は監督にとっても演出意図を生かすことのできる良いチャンスです。したいことをやってみるチャンスとなるでしょう」。

彼はいったん、作業に没頭すると食欲がなくなってしまうのだと打ち明けた。疲れたらビタミンをたくさん飲むよりは散歩をする。「何も考えずに歩いているとアイデアが浮かんでくることが多い」と言う。映画音楽家として現在の大衆音楽と純粋音楽の流れを知らなければならない。それで雑誌とインターネットを通じて様々な音楽に接することも怠らない。2017年若いインディバンド「シリカエケル」のリミックス作業に喜んで参加したのも、彼らの音楽を前から知っていたからだ。いつかは自分の名前でアルバムを出したいという気持ちもあるが、まだ具体的な計画はない。当分の間は映画音楽に専念する考えだからだ。韓国映画界のためには良いニュースだ。

月の裏面
この質問は最後までとっておいた。口の中で吟味していたからだ。タルパランという面白い名前はいったいどこからきたのか。

「ピピバンド時代のことです。ある日、空を見上げたら実にきれいな満月だったんです。月はいつも片面だけを見せていますよね。それで見えない裏側もあるわけです。見方によればニセモノのようでもあります。私もあの月のように面白いと興味を感じてもらえるような人になれたらいいなと思ったんです。ただ月と言っても、面白くないじゃありませんか。感覚の良いパラン(ブルー)を付けてみました。発音が面白かったんです。ハハハ」。

イム・ヒユン 林熙潤、東亜日報文化部記者
安洪範 写真
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