生活

韓国大好き ヘグム(奚琴)に魅せられた 若きトルコ人

急激な変化を受け止めることは決してたやすいことではない。しかしジェブデット・タム氏は、短期間に二度にわたって、そのような経験をした。先ず彼は、韓国でコンピュータ工学とITを勉強するために、故国トルコを後にした。そして次に、専攻を韓国の伝統音楽に変えたのだった。このような変化は、根気と忍耐力、そしてゲストとして訪れた国への愛着なくしては不可能だろう。

運命の女神が微笑むように、誰にでも人生の転換期が偶然の一致で訪れるという。ジェブデット・タム氏の場合もそうだった。ソウルの町を歩いていてそんな奇跡が起きたのだ。孤独を感じて歩いていた彼は、道端の楽師が演奏するメランコリーなヘグム( 奚琴)の音色を耳にした。

「当時の私は19歳でしたが、悲しくて寂しくてトルコの家族のことばかり考えていました。ところが、韓国の伝統弦楽器が私のために泣いてくれているように感じたのです」と彼は振り返る。

見慣れぬ異国の楽器との偶然の出会いが、彼の人生の方向をリセットしたのだ。

奚琴演奏家タム・ジェブデットは、韓国の大衆音楽にはアイデンティティが欠如していると指摘する。トルコの音楽家がトルコの伝統楽器を現代音楽によく用いるように、Kポップの作曲家も韓国の伝統音楽の要素に注目して欲しいという。

数学から音楽に
トルコでのジェブデットは、数学英才クラスの学生だった。それで彼はエンジニアを志し、韓国でコンピュータ工学と情報技術を勉強するつもりでいた。しかし、2012年に韓国に到着した彼は1年間の韓国語学習の授業を終えたあと、ITとは全然関係のないところにいた。ソウル大学校韓国伝統音楽科に入学してヘグムを専攻することにしたのだった。

いったいなぜ、異国の古い伝統楽器にそれほど魅せられたのか? 楽譜さえ読めなかった19歳の青年を魅了したヘグムの魅力とは?

「自分でもその理由が正確にはわかりません」とジェブデット氏は率直に認めた。「たぶん、僕自身は気づいていませんでしたが、心の中に音楽に対する想いがあったのだと思います。ヘグムを最初に見たとき、トルコの似たような楽器のサズ(saz)を思い出しました。とにかくヘグムの音色を聞けば聞くほど、どんどん好きになっていきました。音色が悲しく切なく胸を打ち、時にはユーモラスにひびく音、言葉では言い表せない音色でした」。

ヘグムは単純な楽器だ。二本の弦と木製の胴体と棒状の細くて長い首で出来ている。楽器を膝の上に立てて演奏するが、王宮だけでなく、田舎の裏庭でも演奏され、韓国の伝統音楽として永い間親しまれてきた。楽器の製作には、木、鉄、絹、石、竹、瓢、泥、皮の8つの材料が使われる。それでヘグムは8つの音だという意味の「八音(パルム)」とも呼ばれる。また俗称として「ケンケンイ」とも呼ばれるが、それはその高音の音色を擬声化したものだ。

ジェブデット氏の突然の専攻変更に誰よりも驚いたのは、彼の家族だった。当然家族は、6人兄弟の末っ子の彼が韓国で工学を学んだ後に、お金を稼げるエンジニアになることを期待していた。音楽の勉強それも見知らぬ異国の楽器を専攻すると聞いた時には 、父親が最も怒ったという。

「最初父は1カ月以上、私と口をききませんでした。私の決心をきちんと分かってもらうまでに3年かかりました。父は私が一生懸命勉強して大学で奨学金をもらうのを見てようやく、だんだんと許してくれるようになりました」。

彼が韓国のテレビに出た後、父親の不安は完全に消え去ったという。「父は私がトルコを韓国人に紹介することを、とても誇らしく思っています」。

父だけではなく他の家族も今や彼を熱烈に応援している。しかし、トルコは韓国から遠く離れており、家族からは精神的な支えしか受けることができない。その空白を埋めたのが韓国の知人たちだ。中には彼にとって韓国の父母のような存在の人もいる。

韓国の支援者たち
そのうちの一人は、ジェブデット氏の指導教授でもあるソウル大学校のヤン・ヨンスク教授だ。「ヤン教授には学部の学生だった頃、いろいろと助けていただきました。さまざまな面で助けていただきましたが、ご飯も食べさせてくれました」と彼は話を続けた。「うちの科では毎年3人の学生がヘグムを専攻します。私は他の二人の韓国人学生に追いつくのに必死だったのですが、そんな私に先生方がいろいろと配慮してくださいました。それで成績も4点満点の3.2点をとりました。ヤン教授はお母さんのような方です。先生がいなければ勉強を終えることはできなかったかもしれません」。

ジェブデット氏は「韓国の父」の存在も語った。彼が夜DJとして働いていたクラブの経営者だ。彼はジェブデット氏が身体の具合が悪い時に、お粥と果物を持って家まで見舞いに来てくれた。また、家賃をきちんと払っているか、他の経済的な助けが必要ではないかなど、彼を心配して電話をかけてくるという。

遠い異国から来たこの若者を助けたいと韓国人たちが思う理由は何か。インタビューの間中、気持ちの良い微笑を浮かべるジェブデット氏は、誰からも好感を持たれる人物だ。しかし何よりも、自分の目標を成し遂げるために常に最善を尽くし、勉強と仕事に情熱をもって積極的に取り組むその姿勢に、人々は感動を受けるのだ。彼は時間を浪費することはない。昼間はヘグムを練習し、作曲を学び、夜にはクラブでDJの仕事をしている。

外国の伝統音楽を学びたいという若者に、例えば、トルコの伝統楽器を学びたいという韓国の若者に、どんなアドバイスができるかという質問に、彼は他の何よりもまずその国の文化を学ぶこと、最善なのはその文化を愛することだと答えた。

「まず人々の考え方、人々の精神を理解しなければなりません」。

ジェブデット氏が、11人の外国人からなる多重言語バンドの「ハングル」に加入した理由もそのためだ。英国、スペイン、トルコ、日本から来た音楽家も含めたこのバンドは、様々なイベントで公演しているが、まず自分の母国語で演奏した後、韓国語で演奏するという。「ハングル」というのは韓国語の文字の名称でもあるが、バンド名は「ハングク(韓国)」の「ハン」と「グローバル」の「グル」を組み合わせたものだ、つまり「韓国文化を伝えるグローバルなアーティスト」という意味だ。

ジェブデット氏は現在、およそ50人の外国人が所属するエンターテイメントエージェンシーのエフエムジ( FMG Foreign Manpower Group)に所属している。彼は韓国のテレビやラジオにも出演しているがレギュラーではない。

「私は昼間勉強し、 夜には仕事をしなくてはなりません。克服しなくてはならない障害もたくさんあります。しかし、自分の決定を後悔したことは一度もありません」

兄弟の国
地理的な距離と文化的な差異にもかかわらず、韓国とトルコは長い間、互いを「兄弟の国」と考えてきた。何よりも朝鮮戦争の際、トルコ軍が国連軍として参戦したためだ。

ジェブデット氏は、韓国とトルコにはいろいろな共通点があると考えている。「たとえば、両国の言語は同じ文章形態(註:主語述語の語順が同じ)をしていますが、これは韓国人とトルコ人の論理的な思考が似ていることを意味しているのかもしれません。それに西洋人とは違い、韓国人とトルコ人は家に入る時に靴を脱ぎます。またトルコ人は、特に男性はすぐに興奮しますが、10分も経たないうちにけろっと忘れてしまいます。韓国の男性のように」。

何よりも両国の伝統音楽が似たような雰囲気をそなえていると彼は言う。「韓国の歌のようにトルコの歌にも哀れで悲しい、叶わぬ恋を嘆く曲が多いんです。戦地に出かけた夫を想う妻たちの歌のようなものです。もちろん韓国のようにたびたび外国の侵略にあい、支配されはしませんでしたが、トルコの歴史にも戦争は多かったんです」。

両国の伝統音楽の音階や楽譜は違う。それでもジェブデット氏は、最終目標として韓国とトルコの音楽を組み合わせた曲を作りたいという。

韓国に恋したのか、万一そうならその理由が何なのかとたずねると、彼は少し恥ずかしそうに、こう答えた。

「韓国を愛せずに、どうして外国人が韓国と韓国の文化を深く理解しようと努力できますか」。

ジェブデット氏は、韓国で出会ったほとんどの人々が自分に親切だったので、韓国で暮らして大きな問題に出会ったことはなかったという。しかし一度だけトラブルにあった。それはあるクラブの主人が、およそ百万ウォンの給料を払ってくれなかったことだ。「大部分の韓国人が外国人居住者に親切ですが、外国人を怖がったり、警戒する傾向があります。特にお互いに知り合ったばかりの段階ではそうです」と言い、ジェブデット氏は多くの韓国人に潜在する外国人嫌悪症を示唆した。

彼自身は韓国人の友人や同僚と仲良くしてきたが、韓国に来て間もない外国人たちは、非常に大きな問題に直面しているように見えるという。韓国人の生活方式になれる以前には特にそうだ。「私は韓国で勉強したり、働くことを望んでいる外国人には、言葉を先に学ぶようにアドバイスします。他の国でもそうですが、ここでも仕事を探すには韓国語の出来る人と、そうでない人では大きな差がありますしね」。

これに関連してジェブデット氏は、韓国政府が無料あるいは安い受講料の韓国語講座を提供してくれればと提案する。さらに彼は、韓国政府の多文化政策を賞賛するが、プログラムがより実用的で、来たばかりの外国人が韓国文化と生活方式に早く適応できるような内容にして欲しいと付け加える。「いつもそうですが、最も大きな問題は経済的なことです。仕事を見つけてビザの期間を延長することです」と彼は言う。

タム・ジェブデットは奚琴が、自分の音楽に対する情熱と演奏者としての潜在力を目覚めさせてくれたと考えている。

音楽家として韓国で生きるということ
「韓国で音楽家として生きていくことはたやすくありません。韓国で音楽を専攻する大部分の学生は、家が裕福そうに見えます。私は昼間は勉強して夜は仕事をしなくてはなりません。克服しなければならない障害がたくさんあります。しかし、自分の決定を後悔したことは一度もありません」。

ジェブデット氏は韓国の大衆音楽も好きだが、時に韓国人の文化活動において、韓国人としてのアイデンティティが欠如しているのではないかと思うことがある。彼はトルコ建国の父ムスタファ・ケマル・アタテュルクの言葉を引用した。

「自分の歴史と文化を知らない民族の未来は暗い」

彼はトルコの伝統楽器のサズを現代音楽に使用するトルコの音楽家たちを例にあげた。

「K-POPの作曲家たちが自分の作品にフュージョンというジャンルで、韓国伝統音楽の要素をもっと取り入れても良いのではないかと思います」。

クラブのDJの仕事をパートタイムでしているが、彼は酒をあまり好まない。「トルコはご存知のようにイスラム国家です。それで私たちは酒をあまり飲まず、食べ物を選ぶ時にも非常に注意を払います。豚肉を食べるのは禁じられています。それ以外は韓国の食べ物はほとんど問題がありません。経済的な理由や他の理由で外食よりは直接家で料理をして食べることが多いんです」。

5年後にはどこにいると思うかという質問に対してジェブデット氏は、その頃にはもう少しましな音楽家になっていたいと答えた。彼が現在歩んでいる道をそのまま突き進めば、2025年頃には、私たちは外国人が作曲した最初のヘグムソナタを聞くことができるだろう。

チェ・ソンジン 崔成鎮、韓国バイオケミカルリビュー編集長
河志権 写真
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