ニンニクは中央アジアが原産地だが、韓国や中国をはじめとする東アジア、インドなどの西アジア、スペインやイタリアなどの南ヨーロッパ、そしてアメリカを含む世界の多くの地域で広く栽培されている根菜類だ。韓国ではニンニクはほぼすべての料理に使われているほどの香辛料であるが、ニンニクが生のまま他の野菜と一緒に食卓に上ることもある。
昔は家ごとによく乾いたニンニクを旬の時期にたくさん購入し、茎をつけたままで風通しの良い日陰にかけて保存し、必要なときに少しずつとって使った。しかし最近ではスーパーで剥いたニンニク、叩いて潰したニンニクなどが売られているので用途に合わせて少しずつ購入して使うのが一般的だ。
韓国人にとってニンニクは建国神話に登場するほど永い歴史のある食材料だ。人間になりたいというトラと熊に、天の神桓因の息子である桓雄は、百日間洞窟の中で陽の光を浴びずにニンニクと蓬だけを食べて過ごすようにと命じた。トラは我慢できずに飛び出してしまうが、熊は百日間我慢して人間の女になり桓雄と結ばれ息子を産む。その熊の息子の檀君が建てた国が古朝鮮で、韓国人は彼を自分たちの始祖だという。
漢方でいうニンニクの効能は「体に薫気や陽気を吹込み寒気と冷えを除去し、悪い気運や物質を退治して外に追い出す」というものだ。その一例として昔の記録には、伝染病が流行するという噂が流れるとニンニクの摂取量が増えたという記述がある。現代医学ではニンニクが血液の循環を助け、抗菌効果、免疫増強効果にすぐれた食品であることを各種調査研究が明らかにしている。アメリカの国立癌研究所が推薦する抗癌食品40種類の中の第1位もニンニクだ。
万能香辛料
ニンニクはほとんどの国で香辛料として使われている。調理する油にまず薄く切ったニンニクを入れて唐辛子や長ネギといっしょに炒めたり、揚げたりする中国式調理法、パスタを作るときにオリーブオイルに薄く切ったニンニクを入れて炒めるイタリア式調理法、薄く切ったり、すり潰したニンニクを入れて炒めた麻油(焦がしニンニク油)をラーメンの香味として使用する日本式調理法などはすべて一脈相通じている。(日本では麻油の代わりに香りの弱いニンニクパウダーを使用することもある)
韓国人にとってもニンニクは基本的には香辛料だが、ほとんどの場合、切って使うよりはすり潰して使う。食卓にのぼるほぼすべての料理に調理の過程でこのすり潰したニンニクが使われていると言っても過言ではない。
欧州ではスープストックを作るときにさまざまなスパイスとハーブのブーケガルニを利用して香りをつけたり、主材料の雑多な臭いを消し味をひきたてるが、韓国では特にサムゲタン(参鶏湯)、カルビチム(牛肉蒸し煮)、タッポックムタン(鶏肉炒め)、ヘムルタン(海鮮鍋)などの肉料理や魚料理にニンニクを山ほど入れる。ソウルの鍾路3街に古くからあるタッポックムタンの店「ケリム・マヌルタッ」はタッポックムタンの鍋にすり潰したニンニクを山のようにのせて出すことで有名だ。テーブルで直接煮込む過程で山のようにあったニンニクがいつの間にか鶏の油と一緒に熱い汁の中に溶け込み鶏肉の生臭さを消すだけでなく、砂糖とは一味違う甘味を引き出してくれる。
焼いて食べたり、生で食べたり
生のニンニクが生の葉野菜と一緒に食卓に上ることもある。牛カルビ肉の塩焼き、豚の三枚肉のような肉類を鉄板で焼いて食べる際には、サンチュやゴマの葉に肉と薄くスライスした一片のニンニクをのせて、専用の味噌を添え包んで食べる食べ方をよくする。生ニンニクをあまり食べたことのない人は生ニンニクをまるごと、または薄くスライスしたものを肉と一緒に鉄板にのせて肉から染み出る油で焼いて食べたり、あるいは鉄板の端にごま油を入れたホイルの器を置いてそこでニンニクを蒸し煮しながら食べたりもする。(これはニンニクのひりひりするような辛味を押さえ、ニンニクの最大の問題点である食後の口内のニンニク臭を防止するのにもお勧めの方法だ)
ニンニクの茎のしょうゆ漬け。ニンニクの茎を適当な大きさに切ってから砂糖と酢を入れた醤油を煮立たせて熱いうちにかけ、密閉容器で保存して熟成させる。
ニンニクを利用した伝統的な小鉢のおかずとしてはニンニクしょうゆ漬けがある。煮立てて冷ました醤油にむいたニンニク、あるいは皮付きのまま入れて、数ヶ月保管し熟成させたものだ。家庭ごとに少しずつ違う醤油の味にニンニクの味、そして時間の味が加わり立派な保存食品となる。
ニンニクを利用した食べ物はどこの国にもあるが、最も手間のかからないレシピにガーリックトーストがある。潰したニンニク、溶かしたバター、砂糖でソースを作り、斜めに切ったフランスパンに塗ってからパセリの粉を少し振りかけオーブンで焼けば良い。焼く過程で美味しそうな匂いが家中にただよい、食するときバターの風味がさらに豊かに感じられるだろう。
ニンニクの茎
ニンニクのしょうゆ漬け。砂糖と酢を入れた醤油を煮立たせてから冷まし、それをニンニクにかけて作るが、醤油の味は家ごとに少しずつ違う。
韓国人のニンニク好きはその実だけにとどまらない。ニンニクの花茎や茎はニンニクよりも味も香りもソフトで、すばらしい食材となる。ニンニクの花の咲く3月、南の美しい観光地済州島でニンニクの茎の収穫が始まる。市場に行くと、アスパラガスよりも細めの緑色のニンニクの茎が束になって売られており、春を告げている。乾燥海老と一緒に油で炒めたり、実と同様にしょうゆ漬けにしたりして一品料理として食べる。オリーブオイルとニンニクが主材料のパスタ料理アーリオオーリオを作るときに、ニンニクの代わりにこの茎を使っても良い。ニンニクの茎は熟してもそのさくさくとした食感が残り、辛さは甘みに変身する。
春には肉を食べるときにサンチュ、唐辛子などの野菜とともにニンニクの茎が食卓にのぼることもある。ニンニクの茎を食べやすい大きさに切ってから熱したフライパンに油で炒め、さらにきれいに切り揃えたイカと唐辛子味噌、砂糖、数滴の酢、豆板醤、牡蠣ソースを入れて炒めると春先の食欲のないときに打ってつけのおかずになる。
漢方ではニンニクの効能を「体に温熱や陽気を吹き込み、寒気と冷えを取り除くもの」だと謳っている。現代医学でもニンニクが血液の循環を助け、抗菌効果、免疫増強の効果に優れた食品であると各種調査研究で明らかになっている。
エシャロットとニンニク
参鶏湯をはじめとする各種肉料理には叩いて潰したニンニクと生のニンニクが欠かせない香辛料として使われる。
ニンニクを大量に使用する韓国料理を食べたことのない人は、エシャロットという香辛料を思い浮かべれば似たような味と香りを想像することができるだろう。エシャロットはニンニクと同じユリ科の植物でニンニクのような辛い味にタマネギよりもさらに強い甘味が合わさった香辛料だ。フランス、東南アジアではサラダやソースによく使用される。ソースを作る際のベースとなり、魚料理、肉料理の付け合せや香辛料として使われる。オーブンでオイル焼きにして食べたり、葉が緑の時にはその葉も香辛料として使われる。韓国人がニンニクを油で焼いて食べたり、ニンニクの茎を食材料として使うのと似ている。
旅先で見慣れぬ食べ物に出会うことは避けられない。その出会いを喜びに変えてこそ旅の楽しさも深まるというものだ。食材料専門家の私が旅行作家たちと一緒に「トラベラーズ・キッチン」という集まりを作ったのもそんな理由からだった。国内旅行先で有名食堂の食べ歩きだけにとどまらず、季節の旬のものを、その産地で味わうものにし、海外旅行においても韓国料理店だけを探し回って終わる旅ではなく、旅先の見慣れぬ食文化を楽しむ旅にしたい。そんな意味から、ニンニクに馴染みのない旅人にお勧めしたい。韓国ではぜひニンニクに親しんで欲しいと。