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An Ordinary Day > 상세화면

2024 SUMMER

村のサランバンのような薬局

村の入り口にある大樹の木陰のような、ちょっと一休みして世間話をする、そんな村の人々の憩いの場を韓国では「村のサランバン(舎廊房)」と言う。村のサランバンは韓国人にとって大切な空間だ。世間話を交わしながら互いの近況を知り、情を培うからだ。薬剤師のチョン・チョロンさんが故郷のヨンウォル(寧越)に開いた彼女の薬局は、都市化が進み姿を消しつつある「村のサランバン」の役割をしている。

ヨンウォル(寧越)で小さな薬局を開いている薬剤師のチョン・チョロンさん。彼女の薬局を訪れるのは薬を買う人だけではない。一休みしていくおばあさん、バスを待っている乗客、荷物を預けていく人々が行き来し「村のサランバン」の役割をしている。

彼女の一日は単調に流れていく。しかしとてつもなく忙しい。休日である週末を除けば朝9時に出勤して、退勤する午後6時まで薬局で患者に接し続ける。少し暇な時間を見つけると、疲労回復用のドリンク剤などの商品に貼るステッカーや薬局内のポスターのデザインを考えたりする。

ちょっと立ち寄り一休みする場所

薬局の中でいつも忙しく立ち働いている彼女だが、店内にいても四季の移り変わりはしっかり感じ取れる。薬局の大きなガラス窓越しに、季節に応じてその色を変えていく木々の様子が見て取れるからだ。季節の変化を感じさせてくれるのは他にもある。彼女の薬局には、一時的に荷物を預けていく人がよくやって来る。近くの市場やスーパーで買い物をした荷物をここに預けて病院、銀行、郡庁などに用事を済ませに行く顔なじみの人たち。預けていく荷物の中の旬の野菜や果物から季節を感じ取れるのだ。

「これちょっと置かせてねと頼むときのお母さんたちの表情がとても可愛いんです。この空間を気楽なものと思ってくださり、むしろ私の方が感謝しています。私が思い描いていた姿なんです」

薬局には休憩用のテーブルがあり、おやつも用意してある。韓国人の好きな双和湯(疲労回復に効果的な複合茶)と薬果(韓国の伝統菓子)、ビタミンやキシリトール入りのキャンデイなどだ。

薬の調剤が終わるまでしばし座って待つためのテーブルだが、友人との待ち合わせ場所に使ったり、家に帰るバスが来るまでの時間つぶしなど、他の用途で利用する人も多い。村の入り口に立つ大樹の木陰のように、いつでも人々が一休みして世間話を交わしている。薬局が村の「サランバン」の役割をしているのだ。

気持ちに寄り添うカウンセリング

「ほとんどが顔なじみの患者さんなので、そのご家族の健康についても相談を受けたりします。できるだけ詳しく説明しています。うちの薬局を利用する方とそのご家族が健康な人生を送っていただけるように、少しでも力になりたいんです」

韓国では薬局と薬剤師の果たす役割は大きい。「薬のことは薬剤師に」という言葉があるほどに、薬局で薬剤師の説明を聞いて薬を買うのが一般的だ。病院など医療機関の少ない田舎では、すぐに病院に駆け込まなくてはならない緊急事態でないかぎり人々は薬局に頼るので、その役割が大きいと言える。

二日酔いの薬、疲労回復剤など、症状に合わせて必要な薬を一まとめにしたパッケージ、そこにチョン・チョロンさんは自らデザインしたステッカーを貼っている。

特にここ寧越郡は若者よりも高齢者が多く、薬剤師の服薬指導もとても重要になってくる。チョン・チョロンさんはその任務に忠実な薬剤師だ。普段から、体のどこの調子が悪いのか、どんな薬を服用しているのか、主な食事の内容にいたるまで細かく聞いて相談にのる。患者さんが聞き間違えがないように何度でも繰り返して説明することも忘れない。しかしそういう作業も、彼女にはぜんぜん面倒ではない。相談に正確に対応することで患者の健康状態が良くなるのを見るたびに、彼女は自分が成長していると感じるからだ。

「忘れられないことがたくさんあります。ある日、帽子をかぶった中年の女性と話しをしていた時のことです。その方が抗がん剤治療中であると聞き、思わずその手をぎゅっと握りしめました。病に打ち勝つ勇気を与えたくて、自然と涙があふれてきました。当時、私にできることは手を握ってあげることが全てでしたが、とても喜んでくださったことを覚えています。今では完治されて健康な姿で薬局にいらっしゃいます。顔を見るたびに胸が熱くなる患者さんです」

認知症と関連した栄養剤を買いにきた中年女性も記憶に新しい。適した薬を薦めるためにチョン・チョロンさんがいろいろな質問をすると、その女性は母親が認知症になりもうすぐ介護施設に入るのだという。その日もその女性の話に涙を流した。慰めの言葉が見つからず心が痛んだが、その気持ちに寄り添い一緒に泣いた後で、その女性の見せた微笑を今でも思い出すという。話を聞いてあげたり、一緒に涙を流すことで病気を治療できるわけではないが、相手がまた頑張ろうと思えるように応援することはできると信じている。彼女が傾聴と共感に時間とエネルギーを注ぐ理由だ。

故郷で味わう幸福感

寧越郡は彼女が生まれて育った土地だ。江原道南部にある小さな都市で山と渓谷、川と湖など自然に恵まれた美しい場所だ。このまばゆい地で彼女は高校まで通い、都市部の大学の薬学部に入学し故郷を離れた。そして2019年4月故郷に戻り小さな薬局を開いた。

「大学を卒業した後、都市の薬局で2年半ほど働きました。処方箋を受け取り薬を調合するのが主な仕事でしたが、面白くありませんでした。押し寄せる処方箋をさばくのに忙しく、一人一人の患者さんに薬について説明することさえきちんとできませんでした。ある日ふと、機械のように薬を調剤するのではなく、一つの薬を手渡すのでも患者さんときちんとコミュニケーションをとりたいと思いました。そして自分の薬局を開こうと決心しました」

最初は働いていた忠州市内に薬局を出そうと考えた。しかし適当な場所が見つからなかった。悩んでいるときに寧越市にいる父から電話が来た。30年以上続いた洋装店が閉店し、その場所が空くという。それが現在、彼女の薬局となっている。田舎で薬局をして暮らすことを考えたことがなかったので、しばし悩んだが考えた末に決心した。人情が行きかう薬局づくりをするのに、故郷ほどピッタリの場所はない気がした。その予感は的中した。どこの家の娘か、よく知っている地元の人たちはまるで自分の子供や姪っ子にでも対するように、彼女に暖かく接してくれた。

「開店して1年足らずでコロナ禍に見舞われました。マスク大乱や、鎮痛剤の品切れのような事態も何度もあり大変でしたが、その時間を患者さんたちと共に耐え抜いたことで、より強固な連帯感が生まれた気がします」

日常が戻ってきた今日この頃、これまでの数年間と違い、薬局でよく売れる薬にも変化が生じてきた。以前は主に疾病を治療する薬が売れていたが、最近では疾病を予防する薬の販売が大きく増えた。免疫力に対する認識がそれだけ高まったのだ。

彼女は患者一人一人の健康情報を記憶し、個別に記録も残している。把握することで手助けすることもできるからだ。「お隣の箸と匙の数も知っている」ということわざのように、彼女の頭の中には彼女の薬局を訪れる隣人の情報が詰まっている。

笑いはもう一つの治療薬

彼女の薬局には面白い光景がある。先ず目につくのが脳、目、肝臓、胃などの臓器を描いたキャラクターだ。このキャラクターは都市で働いていた際、仕事の合間にSNSに連載していたウェブトーンの主人公だ。より親近感をもってもらう方法はないかと考え、女学生時代の本人の姿をキャラクターにして、体の中の臓器と該当する薬品を絵にした。直接デザインしたステッカーも可愛い。二日酔いに効く薬や疲労回復剤などには手書きのステッカーが貼られており、人々の反応も良いという。

彼女は自分で作り出したキャラクターでSNSにウエブトーンを連載している。薬局を開くことになった話から薬局にやってくる人々の様子、薬の使用方法など、そのストーリーもさまざまだ。
© yaksaseyo

「最近は1カ月に一度、寧越で発行しているタウン誌『暮らしやすい寧越』に漫画を連載しています。薬局でおきる些細な日常の出来事を漫画にしています。読者が私の漫画を見てニヤッとしてくれたらうれしいです」

陽がゆっくりと落ち、あたりを赤く染めている。患者さんに温かい心で寄り添い、共感し、彼女に似たキャラクターでウイットを伝え、服薬の相談にのり顧客の健康に責任を持つ彼女が薬局を後にする。家に帰り昼間の空いた時間に構想したデザインと漫画の作業をしていると、いつの間にか満天の星が輝きはじめ、寧越の夜空を美しく彩っている。

パク・ミギョン 朴美京、作家
ハン・ジョンヒョン 韓鼎鉉、写真家

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